美丈夫の嫁9 7





 仰向けのまま腰を持ち上げられて、後孔にゆっくりと美丈夫のものが差し込まれる。指とは比べものにならない大きさに息が詰まった。
 身体が強張ったことに「すみません」と謝罪が降って来たが、俺はそれに首を振った。俺も望んだことなのだから、美丈夫が謝ることはない。
(さすがにきつい)
 後孔が切れるイメージが脳裏を過ぎる。出血したとして、帰りの飛行機はじっとシートに座っていられるだろうか。
 体内を強引に拡げられて圧迫感に苛まれる。
 やはりあんなものを体内に入れるということは、無謀な行為なのだ。そう思い知るけれど引き返すつもりはなかった。美丈夫もそうだろう。
「っ……」
 ぴりっとした疼痛が走り、身体が硬直した。それに美丈夫が表情を陰らせては動きを止めた。そして腰を引くような素振りを見せたので、俺は美丈夫へと手を伸ばす。
「引くな」
「でも、痛いでしょう」
「そこそこな。じゃが、しばらく経てば慣れるじゃろう。指の時もそうだった」
 入れられた瞬間は辛さがあったけれど、それも徐々に和らいでいく。馴染むということをしっかり感じられる。
「……もう少し奥に入れれば、前立腺があるので。そこを刺激すればまた違った感じになるかと思います。それまで頑張れますか?」
 真面目に説明をされて、セックスをしているような空気ではないなと思ってしまった。色気も何もあったものではない。
「なら、もう少し、奥に、入れて欲しい」
 感覚が変わるかも知れないと言うのならば、ぐっと差し込んで貰ってそこで馴染ませればいい。
 そう俺としては気軽に提案したのだが、美丈夫が歯を食いしばった。そして中にあるものがびくっと反応を示す。
(もしかして、感じたのか?)
 この台詞の何が刺激になるのか。俺にはさっぱり分からない。
 けれど体内にあるそれは、熱さを増しては膨らんでいた。ただでさえ大きくて咥え込んでいるのが苦しいのに、更に大きくなるのは勘弁して欲しかったのだが。こればかりは自制出来るものでもないのだろう。
「もっと奥、ですね」
 ぐっと美丈夫の雄が更に深くへと入る。その長さがどれくらいのものかは分からないけれど、先端が触れた部分が一気にぶわりと熱くなった。
「ひゃ、あ、っ」
 ひくんひくんと後孔が締まる。前立腺を雄が刺激したのか、痛みで萎えていた俺の茎にまで快楽が走っては、自然と声が零れた。
(なるほどなぁ……ここにいれば、多少、気持ち良い)
 雄が中にいるだけでは圧迫感と苦しさばかりだが、ここにいられるとその中にも快楽のようなものが混ざる。
 茎を扱かれたり、舐められたりという刺激よりも曖昧なものだが、妙に深くから響いてくる。腰骨をこつこつと叩かれているような錯覚だった。
「熱い……」
 内側から全身が焦げるような熱が這い上がってくる。それは意識まで飲み込んでしまいそうで、譫言のように唇が言葉を零していた。
「はい、とても。蕩けそうです」
 美丈夫はその言葉通り、とろりとした笑みを浮かべている。汗だくの肌は艶やかに上気しており、若さと色気の両方を持っている男が酷く蠱惑的な生き物に見えた。
 美丈夫はそこで止まり、口付けてくる。そうして体内が雄に馴染むのを待っているのだろう。
 しかし体内が収縮して雄を締め付ける度に、大きさが増しているようだった。脈動が強くなるのが伝わってくる。
「上総さん、すみません」
 上擦った声で囁かれた時、予感はすでにあった。
「動いていいですか?」
「……どうぞ」
 イきたい、出したいと雄が中で訴えている。我慢したくないのだろう、美丈夫の腰もじわりと動いていたので、突き上げたいのだとは分かっていた。
 許可を与えられると、美丈夫はもう一度「すみません」と口にした。そしてこれまでの気遣いを捨てるかのように、荒々しく腰を動かし始める。
 じっとしていられなくなったらしい。そして加減も出来なくなった様に、俺は翻弄されるしかなかった。
 内臓が圧迫されて苦しい、後孔も拡げられることに慣れておらず、痛みのようなものもある。律動の度に呼吸が止められるようだったけれど、美丈夫はそこから更に奥に、無理矢理突っ込んでくることはなかった。
 それが彼なりの優しさなのだろう。
 そして前立腺の辺りをごりごりと押されると、じれったいような快楽も走った。繰り返されるとそれが次第に熱を増していく。
 気持ち良いとはっきりとはまだ言えないけれど、腹の奥が疼いては酩酊感のようなものを与えられる奇妙な感覚だった。
「イく、イきます」
 はあはあと獣のように息を荒げながら、美丈夫はそう告げた。辛そうなその表情に、俺は両腕を美丈夫の首に回して、身体を密着させた。
 抱き締めた熱く汗ばんだ肌が、無性に愛おしかった。
「おいで」
 それは何を考えたわけでもなく、俺の唇が自然と紡いだことだった。
 そしてそれを音にした瞬間、そうだと思った。
 これが俺が美丈夫に対して告げたいことだった。そうしたいのだと、素直に感じた。
(俺の答え)
 抱き締めて、この男を受け止めたい。
 これまでひたむきに恋情を向けられた実感がある。その分だけ俺は美丈夫を慈しみたい。求められることの心地良さの分、ちゃんと歓迎される喜びもこの男に教えたい。
 それで良い。
 理解した俺の中で、雄がびくりと震えた。そして美丈夫は俺の中を掻き混ぜた。
「んっ……あ、っあ」
「上総さん、かずさ、さん」
 名を呼びながら美丈夫は腰を振り、そしてそれまでより少しばかり奥に雄を入れては、そこで息を止めた。
 雄が精を吐き出していることが、コンドーム越しに淡く察せられる。
 ちゃんとイった。こんな貧相な男の身体で欲情して、中に入れてちゃんと絶頂することが出来る。
 とても奇特な性癖な男だなと思うけれど、ここまで来たことは嬉しかった。
 全身に力を入れていた美丈夫の頭を撫でると、ゆっくりと弛緩した。射精が終わったのだろう。どっと息を吐いては身体を寄せてくる。
「すみません……」
「何が?」
「先に、一人だけ気持ち良くなってしまって」
「せっかく苦労して俺の中に入れたんじゃ。ちゃんと気持ち良くなって貰わなければ勿体ないじゃろう。イってくれて、良かった」
「でも上総さんは全然気持ち良くないですよね……」
「意外とそうでもない」
 感じたことをそのまま伝えると美丈夫は瞠目した。そして喜色を浮かべるが、俺は「しかし」とすぐに続ける。
「後ろだけでイくことは困難じゃ。だから、前に触って欲しい」
 体内からの刺激だけで絶頂することは現状では不可能だ。これから先がどうなるかは分からないけれど、現時点では到底無理だった。そこまで明確な快楽があるわけではない。
 それに長時間そこを抜き差しされるのも辛い。なので煽られたこの身体を解放するために、性器への愛撫を求めた。
 セックスをしている、性的な刺激も与えられている、そして美丈夫が中でイったという事実に俺だって興奮はしている。
 性器も勃ち上がっており、触って欲しいとねだっていた。
「仰せのままに」
 美丈夫は機嫌良くそう答えては、繋がったままの体勢で俺の性器を手でしごく。
「っん、あ、ぁ」
 高ぶっている茎は美丈夫からの愛撫に敏感に反応する。
 びりびりと痺れるような快楽が走って、俺を飲み込もうとしていた。身体に力が入るせいか、後孔に入ったままの雄もつい締めてしまう。
「抜いて…、欲しい」
「入れたままイって下さい。繋がっていることが気持ち良いって、頭に刻み付けて下さい。そうしたら、これからセックスがもっと、気持ち良くなります」
 美丈夫はそう説明しながら手を早めた。
 絶頂に追い込んでいく、容赦のない手つきだ。
 それにしても言っていることはまるで洗脳のようではないか。繋がっている状態で絶頂を感じたのならば、身体が繋がっている状態そのものを気持ち良いものだと思い込むなんて。
 身体に学習させようとするその姿勢に、美丈夫の根気が垣間見える。
「あ、っう……んぁ、ああっ」
 ぐちぐちと先走りで美丈夫の手が濡れているのだろう、酷い音が聞こえてくる。だがそれに恥を覚えるよりも、気持ち良さが勝った。
 自分で腰を振りそうになるけれど、繋がっている体勢がそれを許してくれない。
「可愛い……」
 そう呟いた美丈夫の頭を殴りたかった。だがそれほどの力が入らないので、代わりに目の前で俺を見下ろしていた、その顔を睨み付けては頬をつねる。
 すると美丈夫がくすくすと笑って、茎の先端を軽く擦った。それに足が跳ねてしまう。
「や、あ、っイく」
「はい。出して下さい。俺の手の中に、全部」
 促す美丈夫にはち切れそうな茎を扱かれ迫り上がってきた絶頂に、俺は自分を手放した。
「い、あ、っん……っ!」
 どぷりと白濁が溢れる。美丈夫は絶頂に震えるそれを、優しく搾り取った。
 茎で迎える絶頂は身体に馴染みのあるものだ。けれどそれが他人の手から与えられた場合は、快楽の大きさが桁違いになる。
 まして自分で茎を扱く手を止めることが出来ない。
 絶頂の波を続けようとするかのように美丈夫にそのまま愛撫を続行され、下半身が砕けて溶けてしまいそうだった。
「もう、もういいからっ」
 最後の一滴まで出させようとする美丈夫にそう訴えて、ようやく解放される。
 気持ち良さも、過ぎれば辛さに変わってしまう。
 俺はぐったりと身体を投げ出しては、真っ白になった頭が色を取り戻すまで呆然と呼吸をしていた。焦げ付きそうな肌は冷めることがなく、ぼんやりとした意識でも、美丈夫が中にいることが感じられてしまう。
 繋がったままでは決して冷静さは戻って来ないのだと、美丈夫に教えられているみたいだ。
(出したら、鎮まるものなのに)
 繋がったままでは、上手く理性が戻って来ない。
 まして美丈夫は俺の呼吸がある程度整ってくると、唇を重ねて来た。口付けを何度も交わしては、労っているのか、それとも快楽の名残を味わっているのかよく分からなくなってくる。
「……見過ぎじゃろう」
「貴方をずっと見ていたくて」
「俺はずっと見られるのはお断りじゃ」
 美丈夫ほどの男に、ずっと見ていたいと言われるのは口説き文句であり、光栄なことかも知れない。だがこの状態で見詰められるのは恥ずかしさしか沸いて来ない。
「上総さん。もう一度、シたいんですが」
「我が儘が過ぎる」
 体内にあるものが育ち始めていることはうっすらと察していた。だから美丈夫が頑なに抜かない時点で、そんなことを言い出すのではないかと頭の片隅で心配していたのだが。案の定というか、美丈夫はまだ続けたいらしい。
 俺が即答すると、眉尻を下げては何とも憐れみを誘う表情を浮かべる。
「駄目、ですか?お願いします……」
 懇願する眼差しから目を逸らした。
 しかし悔しいことに、俺はこの双眸に勝てた覚えがなかった。
 



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