誘惑の人 2



 焦らす余裕が欠片もなかった。
 だから申し訳ないと思いつつ、後ろをならすことに重点を置いた。
 いつもなら要を一度イかせるくらいの丁寧さは持っているのだが。
 今日はそんなことしていたら、ただでさえ弾け飛んでいる俺の思考に拍車がかかる。
 慣れていない後ろに無理矢理突っ込む前に、なんとかほぐすことだけでもしようと思ったのだ。
 痛みを与えたくはない。
 無理矢理抑えつけるような真似もしたくない。
 だからかろうじて理性が頭の隅にひっかかっている間に、出来るだけのことをしておきたかった。
「っひ……ぅん」
 後ろに指を一本差し入れて探るように動かす。
 要はひくりと内太股を震わせた。くぐもった声が零れてくる。
 中は熱い。
 触れている肌よりも熱く感じる。
 俺は震えた太股に軽く噛みつく。ひくりと強張る身体が面白い。
 そのまま足の付け根まで舐め上げながら、後ろに入れている指を奥へと入れていく。
 ローション使ってるからぬめりを帯びて、抵抗感はまだ小さい。
「ぁ……っ」
 要が堪えきれないというように声を出した。
 足の付け根の辺りが結構弱いことを俺は知っている。
 そのまま茎にふっと吐息をかけると、それは頭をもたげる。充血しているそれを口に含むときっと要は高く啼くだろう。
 気持ちがいいと応じる下肢とは反対に、口では嫌だと言うのだ。
 その反応を想像するだけで、俺は下半身が焦がされていく。
 煽るように、丸みを帯びた茎の先端を舌で舐める。
「あ!っ……っん」
 ねだるような甘い音。しかし俺は犬が水を飲むみたいに軽く舐めただけで、それ以上はしなかった。
 目の前で今要にイかれると、足を掴んでそのまま俺を突っ込みたくなる。
 まだほぐれないのに、そんなことをしたら切れるだろう。
 流血沙汰なんて冗談じゃない。
 後ろの指を二本に増やしながら、俺は顔を下肢から胸に移動させた。
「ふ……っく…」
 二本に増やされ、要は呼吸を乱す。質量が違うと感覚も異なることだろう。
 俺には実感したことのない感覚に苛まれている人を宥めるように、俺は喉に口付けた。
 ひゅうひゅうと空気が通る音が聞こえる。
「んっ……」
 くちゅりと後ろからは濡れた卑猥な音がする。その音を恥じるように要は身体を強張らせた。
 その反射か、後ろが締め付けられる。
(突っ込みてぇな)
 指が感じた締め付けを、自分のもので味わいたい。
 それはきつくて、心地の良い感覚なのだ。
 だがまだそれは味わえない。おあずけを食らっているような気持ちだ。
「す、きや…っ」
 右の胸の突起を舌を絡めるように舐める。
 相手が女だったなら、胸を鷲掴みにするところだろうが。要にはそんなものはない。
 何の膨らみのないそれを執拗に舐めるというのは、冷静に考えると奇妙なことに思えるんだが。
「ャ、ゃぁ……っん」
 要はむずがるように緩く首を振っているようだった。
 男なのにそんなところ舐めないで欲しい。そう願いながらも喘ぐ光景があまりにもエロかったので俺にとってはお気に入りだ。
 左側は空いていた手で摘む。両方を責められ要は腰を僅かに動かした。
 茎が硬く張り詰めているのを、ちらりと見て確認した。
「ひ、あぁ…」
 ちぅと音を立てて突起を吸い上げると要は啼きながら後ろを締め付けた。
(そんなにイイのか)
 男なのにそんなに感じるものか。
 こいつ女に生まれ間違ってないか?見た目も技能もそんな気がする。
 ああでも、もし要が女だったら。
(とっくにはらましてるな)
 生ですることもあるし。
 そう考えると我慢の限界を感じて、指をもう一本増やしながら胸ではなく腹へと唇を下ろした。
「っんん…」
 指から逃げるみたいに要は上へとずり上がったが、軽く抑えてから中に入る。
 奥へ、感じるであろう場所へと入り込む。
 それまでは周囲を撫でるように動かしていたが、そろそろ後ろで感じさせてもいいだろう。
「あ、あ…っんぅ…」
 奥、要が感じるであろう場所を軽く押すと要はシーツを掴んだ。
 耐えているような顔だが、赤く染まった目尻も濡れた唇も、やらしくて仕方ない。
「は、ぁ…っん……ぃ」
 要の茎は先端から雫を零している。
 俺は唇を離してまじまじとそれを眺めてしまう。後ろを探られ、出し入れをされ、感じている。
(抱かれるための身体か)
 そういう風に仕込んだのは俺だが、こうして明らかにされるとどうしようもない気持ちになる。
 抱き潰してしまうんじゃないかと思うほどの衝動が込み上げてくる。
 それを誤魔化すように指の出し入れをきつくして、中を軽く引っ掻くと要が悲鳴のような喘ぎ声を上げた。
「駄目っ…で…っ…ぅん!」
 首を振って逃げようとする要を苛むようにしてぐちゅぐちゅと中を掻き混ぜると要の足がシーツを蹴った。
「イっ……出る、っ!すき、やぁ…!」
 前に触っていないのに後ろだけでイけるのか。という新鮮な驚きを覚えながら俺は指を止めた。
 とろとろと茎は濡れそぼっており、解放の時を待っているみたいだ。
 後もう少しでイくところだったのか、要は潤んだ目で俺を見上げてくる。
 その先を望むように、後ろが俺の指をひくひくと締める。
「……数寄屋…」
 上擦った、甘い声に俺は指を引き抜いた。
 そして要の太股を掴んでは大きく開かせる。
 いつもなら真っ赤になって慌てて閉じたり、抵抗を見せるのだが。今日は違った。
 赤くなるのはいつものことだが、じっと大人しくされるがままになっている。
 そういえば常より身体も過敏になっていた。
 自分から誘ったっていうことが、要自身を煽ったのだろう。
 当然俺もかなり煽られてぎりぎりの状態になっているが。
 触れるまでもなく屹立しているものを、俺は後ろに押し付けた。
 要の瞳が一層潤む。
「力抜けよ」
「う、ん…」
「抜かなくても、今日はすんなり飲み込みそうだがな」
 要の身体は熟れているように感じられた。抱かれることを心から望んでいる、開かれるべきもののようだ。
「いつもよりエロい身体になってる」
 そう指摘すると要は絶句した。
 自分に対してそんな単語を向けられることに、いつまで経っても慣れないみたいだ。
 やらしいだの、エロいだの淫らだの。繰り返すたびに要は信じられないというような顔をする。
「驚いてんじゃねぇよ」
 そう笑って要に口付ける。
「俺にとっては最高なんだから」
 自分の手で変わっていく人。自分の手でのみ開かれる身体。
 それは特別なものだ。
 押し付けていたそれを中へと埋め込んでいく。要の身体が強張るのだが、内側は俺を包み込んでくれる。
 締め付けを押し開いて奥へと潜ると、脳髄を痺れさせる快楽が走る。
 そこから溶けていくみたいだ。だが自分とその内側とは確かに異なる生き物だと悦楽が伝えてくる。
「ひ、ああ……ぅ」
 要が一番感じる場所をかすめたらしい。目を閉じてはあられもない声を上げている。
 同時に呼応するように中がうねった。
 素直な心身だ。
 その声に急き立てられるように俺は自身を全て納める前に動き出してしまった。もっと啼かせたくて、乱したくて、我慢出来なかった。
「あ、あ、あぁっん!ゃ、やぁ!」
 ゆっくりと律動するなんて器用ことはもう出来なかった。えぐるようにして貫き上げる。要の足を掴んでは叩き付けるみたいに腰を動かしていた。
 要はいきなり激しくなった愛撫についていけないらしい。驚いた声を上げては手を彷徨わせた。その先は、俺の背中だ。
「だ、やぁ!すっ、い、イくっ!」
 早いだろ。と俺が思うより早く要は俺の背中にきつく爪を立てた。
 だがそんな痛みは感じることもなく。
 要の足に力が入り、緊張を走らせた。
 頭をもたげていた茎から白い液体が飛び散る。
 俺は中に入れている自身を締め上げられ、歯を食いしばった。まるで搾り取るみたいな動きで、イってしまいそうだった。
 だがまだ中を蹂躙していないという意識が、かろうじて放出を塞き止めた。
 しかし背中を駆けめぐった快楽の強さは電流のようだった。
 要の出したものは、要の腹を汚してとろりと流れていく。
 身体は弛緩して、要は目を閉じる。そのまま「はぁ、はぁ」と荒い呼吸を繰り返して襲いかかってきた悦を逃がそうとしているようだった。
 無防備にさらけ出されるそれが、俺には無性に美味そうに見えてつい腰が動いた。
 まだこっちは盛ったまま、中にいるのだ。
 じっとしているのがきついほど、欲情している。
「っん!?え!まって!」
 再び中で動き始めた俺に、要は目を見開いて抗議しようとしていた。だがそんなものを聞いてやれるはずもない。
 むしろこっちは目の前でイかれて、これでもかってくらい煽られたのだ。
 一秒たりともじっしていられなかった。
「ひ、あ!!やぁ!やだっ!」
 無理、無理!と啼く声を無視して奥まで貫く。要の腰を掴んでやや乱暴に律動を繰り返すとすぐに要の茎も硬くなった。
 イったばかりのそれは、まだ快楽が続いているのかとろとろと雫をまだ零している。
 もしかして小休止なく、イけるんじゃないのか。
 そんなことを思うと要をいじめたくて仕方なかった。
「すき、や!駄目!!だ、めぇ!ぼく!」
 ぼくっと舌っ足らずに喋る要は、嫌がる声とは反対に腰を揺らしていた。
 過ぎる快楽はきついらしいが、それでも気持ちがいいのだろう。
 涙を浮かべながらも、茎は濡れていく。
 同時に俺のものも張り詰めて、痛いくらいだ。
「イっ!イっちゃう…!」
 呼吸にすらなっていない吐息の中で、泣き声を混ぜる。
 そんな卑猥なことを言って、俺が止まるとでも思ったのか。
「イけ、よ」
 俺はそう告げた。
 いくらでもイけばいい。その声に従うようにして、要はひゅうと大きく息を吸い込んだ。
「ひ、ああああ…っ…!」
 もはやほとんど声になっていない声だった。
 白いそれは再び放たれて、要自身を汚す。
 俺に密着するみたいにしがみついていたせいか、喉近くまで汚される。
 ぎゅっと後ろを包み込まれ、俺は抗うように二、三度突き上げて中にそれを吐き出した。
「っく……」
 たたでさえ熱い中が、灼熱になるのを感じる。
 出されたそれを如実に感じるのか、要は「ぅん……っ」と小さく身じろぎながら啼いた。


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