誘惑の人 3 二度、立て続けにイってもはやぐったりとしている要の背中に俺は手を回した。 そして抱き上げる。 俺より随分小柄な身体はすぐに持ち上がる。 そして俺は体勢を変えて、あぐらをかいた。その上に要を乗せる。 「っんん…」 されるがまの要は大人しくそれを飲み込んで、声を零す。 向かい合って抱き合うと、要は全身を投げるように俺によりそってきた。 まだ呼吸は荒い。 しかし、こうして俺の上に乗せないと目線が合わないなんて。こいつは本当に小さい。 それでも俺のをしっかりとくわえ込んでくれるのだから。いじらしいというのか。人体の可能性を思えばいいのか。 「……数寄屋…」 要はそろそろ快楽の波が落ち着いてきたのか、目を開けて俺を見た。 ヤっている時はどれだけ目があっても要は気にしないようだった。 長い前髪が邪魔で、掻き上げてやる。 「今度は上で動いてみろ」 「…まだ……」 要はまだヤるんだと、驚いたようだった。そして言われた内容に泣きそうな目をした。 だがそれすら美味そうに見える。 「自分から誘ったんだから。それなりの積極性を見せてみろよ」 俺は小さく笑いながらキスをした。 本当はヤる前からどこか盛っているように見えた要を、一発目から上に乗せたかった。だがそれをしていると俺が呆気なくイってしまいそうだったのだ。 中に入り込まなくても、自分の上で要が感じているというだけで、出してしまうかも知れない。 いくらなんでもそれは失態だ。 だから初めは俺が動いた。一回出して、少し冷静さを取り戻そうとしたのだ。 そしてちゃんと中でイけたので、やや落ち着いている。 まぁ、まだ要の中に収まったままだから。すぐにでも下から突き上げてやりたいのだが。要が自ら乱れる様も見てみたい。 「ほら」 促すと要は、本気?というように上目遣いで俺を見てくる。だがそれにはキスのみで応じた。 たまには俺だって欲張ってもいいだろう。 いつも欲張っているという声も聞こえてる気がするが。 「……上手くないよ…?」 おずおずと言われ、俺は「ったり前だろうが」と返事をした。 「俺がまだ仕込んでねぇんだから。上手くてたまるか」 要は俺が初めての相手なのだ。いきなり初めから上手かったら嬉しいと思うより怖い。 「下手で十分だ。お前が上で腰振ってるってだけで俺は十分イける」 視覚に訴えられればいくらでも盛る。 そう言うと要は目元をさらに赤くして、恐る恐る俺の肩に両手を置いた。 そしてゆっくりと腰を持ち上げる。 ずるりと引き上げられる感覚に、緩い刺激を感じた。 締め付けも足りない。動きも足りない。それでも要が自分でしているという、その姿が非常にエロい。 「…見ないで……」 要は泣きかけで、そう告げる。 「見ないわけないだろ」 男をくわえこんで、しかも自分から動いているということが。要には途方もなく恥ずかしいのだろう。涙目で嫌々と言うように首を振る。恥ずかしいのは分かる。元々羞恥の強い奴だ。 だがそれが気持ち良さになっているのも、要を見れば分かる。 その茎は萎える様を見せていない。むしろ逆だった。 「ほら、動け」 腰を支えてやると、要はこくりと喉を鳴らして上げた腰を沈める。 中で出したものがくちゅりと音を立てた。 思わず俺は舌なめずりをする。 要は勘弁してくれというように俺を見たが、それを完全に無視してやった。すると唇を噛んで、また腰を動かした。 持ち上げて、下ろす。 その単純に作業をゆっくりゆっくり繰り返す。 出したものが結合部分から溢れて、音も見た目もいやらしい。 「っん…ぁ…」 じわりじわりと快楽が走るのか、要の動きが少しずつ早くなってきた。 どうすれば気持ちがいいのか、この身体は知っている。恥ずかしがってばかりいる要の頭より、よほど素直なのだ。 嫌だと言っていながらも、要は次第にあからさまに快楽を追い始めた。 「っんん…あ、ぅ…っ」 くちゅくちゅと音が大きく響き始めたのも気にせず、腰を振る。 自分のいいところに当たるのか、俺のをくわえ込んで奥の方でばかり腰を揺らしていた。 「そんなに気持ちいいのか?」 はぁはぁと荒くなる呼吸に尋ねると、要はもう理性が溶けてきているのかこくこくと頷いた。 まるで自慰をさせているみたいだ。 そんなことをしそうもない奴だからこそ、この姿は二度と記憶から消えないだろうと思うほど印象的だ。 「っ…あ、あ…あぁ…」 後ろばかりで物足りなくなったのか、要の手が自分茎に伸ばされていた。 だが俺はその手を止めて、自分の指を絡める。 「数寄屋……」 なんで?という目で見られ、俺は口角を上げた。 「後ろだけでイけるだろ」 さっきはそうしてイってしまったのだ。 その光景をまた見たい。 「いじわる…っ」 珍しく俺を責めるような目をするが。言っていることは甘すぎて、無理矢理犯したくなる。 この生き物は本当に、どうしても喘がせたくなる。 「ほら、もっと腰振らねぇとイけねぇぞ」 意地悪いそう言いながら少しだけ腰を突き上げると要の背がしなった。 「ひあ!っん!」 たったこれだけの刺激が声が出るのだから。どれだけ敏感になっているのか。 面白くなって要の律動とわざとずらして、腰を動かしてやると面白いくらいに啼き始めた。 「っんん!は、あ、ああっ」 細い身体。腹や胸は白濁で汚れており、俺は指でそれを広げてやる。 汚れて、乱れて、壊れるまで交わって。 夜が甘さに満たされて溺れるみたいだった。 自然に目覚めてみると、午前十時を軽く回っていた。 傍らでは要がぐったりと眠っている。 無理もない。昨日というか寝たのは今日の午前二時を過ぎていた。 合計何時間ヤっていたのか、計算するのは止めておく。 もちろん、もう少し貪ってやろうかと思っていた自分の記憶も封じておこう。 最後の方、要は本気で泣いているようだった。 自分でも自分がコントロール出来なくなったようで、わけが分からなくなって怖がっていた。 冷静な時にそれを見ていれば、俺も可哀想だと思って抱くのを止めるんだが。あの時は要と一緒になって壊れていたから。 それはまぁ、結構なことをさせて頂いた。 (大体、もう嫌だって言いながらすがるのが悪い) 本当に嫌なら突き放すだの、逃げまどうだのすればいいのに。抱き付いてきているのに嫌だと言われて、俺にどうしろと言うのか。 はいそうですかと言葉だけを受け取れるような男でないことくらいは、要だって知っていると思ってたんだが。 (こいつでも怒るんだろうか) 眠っている要を見下ろす。 つついたらむずがりそうなくらい、あどけない顔に見える。 (高校生に見えるかどうか、かなり怪しい) 中学生でも十分通るような気がする見た目だ。それを昨夜散々抱いていた俺は何なのかと悩みそうだが。同い年なのは間違いなので、犯罪ではない。 かなり強引な抱き方をしてしまったのだが、目覚めたら俺に文句の一つでも言うだろうか。酷いと言われても、覚悟はしているが。 いつも起きたらぼんやりしながら飯の支度をしてくれるのだが。今日は腰が使い物になるだろうか。その辺りが心配だ。 そっと頬に触れてみると、要の眠りは浅かったのかまぶたを震わせた。 そしてゆっくりと目を開ける。 まだ半分夢の中にいるような人は俺を見て「数寄屋…」と呟いた。 「なんだ」 ちゃんと応じてやると、要は眠りからようやく目覚めたのか、瞬きをしてから片手が顔を覆った。 何かを思い出したらしい。顔が赤く染まっていく。 たぶん数時間前の自分が蘇ってきているのだろうと思う。 「お…はよぅ……」 恥ずかしくて仕方がない。そんな様子で要は朝の挨拶をしてくる。 「おはよう」 それを眺めつつ俺は返事をした。 気恥ずかしい朝の光景だとは思いつつ、照れる要から目が離せない。 (深川に借りが出来た) あの助言があったからこそ、過ごせた素晴らしい夜だ。 恩義を感じざるを得ない。 しかし深川に借りがあるっていうのは遠慮したかったのだが。 (得体の知れない雰囲気な上に、要っていう弱みを握られてるからな) 毒舌と言われている深川はそれではなく腹もしっかり黒そうで、色んな面があるような気がしている。そんな危険人物に恩があるなんて居心地が悪い。 だが「うぅ…」と唸りつつも恥じている要を見られたので、その落ち着かない状態も我慢が出来る気がした。 |