温度ある心 3


 数寄屋はきっちり着込んだままなのに、自分は全裸だった。
 それだけでも恥ずかしいのに、自分以外の人間が触れたことの無い場所。それを握られ、翻弄される。
「ゃ…っ!」
 身体を震わせて吐き出すと、向かい合って間近にあった数寄屋の顔がにやりと笑った気がした。
 恥ずかしさに顔を背けると顎に手をかけられる。
 正面を向かされて数寄屋の顔がさらに近づいてくる。
 そうするともう目を閉じるタイミングはわかっている。
 何度も繰り返されたから。
「ん…」
 唇を重ねるのも、舌を入れられるのも、数えるのをやめた。
 だって覚えていられない。
(二桁にはいってないだろうけど…)
 生暖かいぬるぬるとした物に口内をかき混ぜられると、背筋に妙な電気に似たものが走って意識を奪っていく。
 ぞくりとした、妙な感じだ。
「はぁ…!」
 数寄屋の濡れた手が後ろに動き、あらぬ所に違和感を生んだ。
「ちょっ…や…」
 キスを遮り抗おうとすると前を握られた。
 硬直した隙に数寄屋の指はまた中に入り込んだようだった。
「何を…」
「やっぱりきついな。オイル無いかオイル。油。オリーブオイルでもサラダ油でも」
「オリーブオイルなら…あの棚を開けたらすぐに出てくるよ」
 そんな物何に使うのかは分からないけど、正直に答えると指が引き抜かれた。
 数寄屋は立ち上がって教えた棚を漁り始めた。
(何やってるんだろ…)
 この隙に服を手にとって着ようとするが妙な余韻が身体にまとわりついた。
「あ、何服なんか着ようとしてんだよ。また脱がすのが面倒だろうが」
「え…え…だって…」
 オリーブオイルを持ってきた数寄屋にとがめられ、萎縮してしまう。
 数寄屋に少し怒られるだけでも怖い。雰囲気がとげとげしそうで。
「まだ終わってねーんだよ。俺がまだだろ」
 そう言いながら数寄屋はオリーブオイルを手のひらに出している。
 とろとろした液体が流れるのを見上げて、今から何をされるのか不安になる。
「何を…?」
 そして数寄屋はあぐらをかいて座り「こっち来い」と言った。
「…何…?」
「上にまたがれ」
「えー……」
 見られたくないところを露出する格好になるので、嫌がっていると数寄屋の顔が険しくなる。
(…酷いよ…威圧するなんて…)
 怒られるのが嫌で自分が従うことをもう数寄屋はわかっているのだろう。だからこうやって顔に出すのだ。
 嫌々上にまたがるとまた後ろに指を入れられた。
「っ…」
 ぬるっとした感覚。さっきよりも異物感は無いが、妙な感覚は残る。
 入れるべきじゃないところに指が入っていると、強く意識されられていたたまれない。
「やだ…」
 止めて欲しいと願うのに、数寄屋は聞いてくれない。
「嫌だじゃない。痛くない方がいいだろう?」
「…何するの…?」
「俺が入る」
 どうやって入るつもりなんだろう。
「…なんで入るの…?」
「入りたいから」
(…そんなこと言ったって無理だよ…)
 言っても数寄屋は納得してくれない気がしたので心の中だけで呟いた。
 中をしつこくかき混ぜられると身体が少しずつ火照ってくる。
 汗が肌に滲んでくるのが分かった。
「んー…」
 異物感に我慢することに慣れた頃、だんだんキスしたときに似た電気のようなものが生まれ始めた。
「はぁ…」
 大きく息を吐き出すと、それが熱を帯びているようで驚いた。
(いつもと声が違う)
 変に思われる、そう数寄屋の顔を窺うとなにやら難しい顔をしていた。
「もういい頃合いなのか?」
「え?」
「…まぁいいか」
 数寄屋が何に納得したのか分からずにいると、そこから指をゆっくり抜かれて身体から力が抜ける。
 だがまだ指が入っているような感覚が気持ち悪い。
「…何してるの…?」
 数寄屋はなにやらズボンのチャックを開けている。
「腰おろせ」
「…待って…これの上に乗れって…?」
 自分と同じもの、けれど形が似ているような似ていないような、それが身体の下にある。
「そう。そのためにさっきまで慣らしていたんだからな」
「…無理だって!」
「無理じゃない。いいからとっとと腰おろせ」
「嫌っ…無茶だって」
 さすがに逃げようとすると前をいきなり握られて悲鳴を出しかけた。
「っ…ぁ…」
 ぬるぬるとした手に玩ばれて膝ががくがくする。
 中腰の体勢がいつまでも持つはずがなく、我慢したが腰はゆっくりと落ちていく。
  「っ…きつ…」
 予想より質量の大きい物が埋め込まれていく。痛みも広がっていくのに止めることが許されない。
 嫌々と首を振っても髪を撫でられたり、みみたぶを噛まれるだけで止めてもらえない。
(意地が悪い!ひどいっ!)
 痛みに耐えながら頭の中で散々酷いことを言う。でも口に出来ないのが悲しいところかも知れない。
 数寄屋の呼吸も少し乱れて聞こえた。
「…入った」
「う゛ー…」
 ずっと痛いだの、嫌だの無理だの言ったのに結局入れられた。
 そこからぴりぴりした痛みが走ってくる。切れてるかもしれない。
「やっぱり難しいな。後ろは」
 そんなことを言うけど、数寄屋は困ったような顔はしてなかった。
 少しだけ眉を寄せてるけど、苦しいって様子でもない。
「そんなあっさり…」
「まぁ…なんとかなるだろ」
「なんでそんなに簡単に…」
 自分がとんでもないことになっているのは、考えなくても分かった。
 だって中に数寄屋が入ってるなんて、信じられない。
「男とやるのは初めてだが、後ろが初めてなわけじゃねーし」
「…なんか僕、すごい事聞いてる気がする…」
 数寄屋はさらりと言っているけど、実は驚くようなことじゃないんだろうか。今のこの状態がそうであるように。
「人の趣向は色々ってことだ」
(そーゆー数寄屋君はどうなんだよ…)
 繋がったままの会話なのに暢気なものだった。
「さて…そろそろいいか?」
 不意に動かされて、ぞくっとした感覚が走った。
 それが痛みから来るものなのか、別のものなのか分からなかった。

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