確かめ方 6



 リビングでは嫌だとテンに言って、ベッドに変えて貰った。
 だが転がされた後は剥ぎ取るように服を脱がされて、肌に触れられた。
 テンの指や舌が触れる場所全てが熱くなった。
 身体を激しく動かしているわけじゃない。ただ欲情しているだけなのに、汗が滲んでくる。
「っ……」
 感触を確かめるように身体に触れられた後、テンは僕の後ろをならし始めた。
 テンが入るための準備だ。
 繋がるためにはそこをならさなければいけない。元々抱かれるための身体じゃないから。濡れないし、強張ってる。
 指を入れてほぐされる感覚はあまり気持ちのいいものじゃない。
 快楽を追うための時間だけど、その時ばかりは僕の身体が萎縮する。でもその萎縮を感じ取ると、テンはいつも僕の前に指を添える。
 前を撫でられ、しごかれていると後ろに入れられている指の感覚が薄れる。
 中を弄られている異物感も、気が剃れるのだ。
 だが今日は指じゃなくて、テンの口に僕のそれが含まれていた。
「ん…ぁ」
 ローションを帯びた指が後ろを出入りするたびに水音がする。だけどそれだけじゃない。
 テンが前を舐めるたびにぴちゃりと卑猥な音がした。
 焦げ付くような快楽に、僕はいつの間にか自分から足を開いていた。
 誰かにこうして前を舐められるなんて、恥ずかしくて仕方がないはずなのに、与えられる刺激を欲しがってしまう。
「あ!」
 テンの指が、中にある一番過敏な部分に触れた。
 どくりと僕のものが脈を打つ。
 そこを押されると否応なく前が勃つのだ。身体の仕組みがそうなっている。
 けれど僕を更に追いつめるのは、テンがくつりと小さく笑ったことだった。
「ぃ……ぁ」
「イイ?」
 先端に舌を這わせて、テンはそう訊いてくる。
 低く響くそれが、僕の意識まで舐めてくるようだった。
「だ、やめ…」
 指が中にある場所を何度も軽く押す。
 快楽が前に集まって、僕を苛む。沸き上がってくる水がぎりぎりまで満ちてきているようなイメージが浮かんでくる。
「何が駄目?止めたほうがいい?」
 意地の悪い声に、僕は体温がさらに上がるのを感じた。
 ひくりと後ろが勝手にテンの指を締め付ける。
「止めない、で」
 こんなところで止められれば、火照った身体を持て余してどうにも出来なくなる。
 とろとろになり始めた意識はテンに情事をねだる。
 冷静さはもう投げ捨てていた。
 上擦った声に、テンは身体を起こしては僕と目を追わせた。満足そうな笑みだ。
 触れられて刺激を与えられているのは僕だけのはずなのに、テンの目にはぎらぎらとした欲が見えていた。凶暴なまでに強い感情に、僕はぞくりとする。
 だが怖くない。
 むしろ、その先が欲しい。
「じゃあ入れていい?」
 問いかけに僕は頷く。
 テンは普段よく喋る。
 だからベッドの中でもよく喋るのかと思っていた。女の子には嫌われるタイプらしいけど、テンはそれじゃないのかって。
 でも実際は違った。
 セックスをしながら、テンがべらべら喋ることはない。むしろ言葉は少なかった。
 ただ触れること、動くことに夢中になっているようで、忙しない。
 僕は次から次へと与えられる悦に戸惑い、いいようにされているのが現状だった。
「力抜いて。痛くないから」
 痛いってと僕は言ってやろうかといつも思う。どれだけほぐされてもそこは入れるべき箇所じゃない。だから力を抜いても苦しいのだと。でも、真剣に僕を見つめる目を前にすると、痛くてもいいと思える。
 痛くても苦しくてもいい。
 構わないからテンも一番気持ち良くなって欲しい。
 テンの指が僕の太股を掴んでは自分の肩にかけた。大きく開いたそこを直視したくはなかった。だって期待するように先端が濡れている僕のそれが見えるから。
 テンの切っ先が後ろに触れると、僕は深く息を吐いた。
 生き物の一部が中に入り込んでくる。どくりどくりと脈を打っているのは僕かテンか。きっと両方だ。
「ん……」
 ぐずるように僕は吐息を漏らした。
 呼吸するたびにぎしぎしとそこを締め付ける。もう入らないと身体は言っていた。
 けれどテンは埋め込むのを止めない。
 息が乱れているのは苦しいからだ。だが止めようと口に出すことはない。
 僕はついテンの肩を掴んではすがるように顔を寄せた。
「キツイ」
 テンがぽつりと零す。それはこっちも同じだ。
「痛い?」
「だいじょ、ぶ。だから」
「じゃあもうちょっと」
 大丈夫だと返すと、テンはさらに奥まで入り込む。開いては、僕の身体を占領するみたいだ。
「っ、あ…」
 初めて抱かれるわけではない身体。占領されてもそれを受け入れることを知っている。
 じわりじわりと苦しさは欲に似た熱へと変わる。苦しさは焦がれるような感覚に変換され始める。
 この圧迫感の後に何がくるのか、もう知っている。
 テンは自身を納め終わるとしばらくは僕の身体が馴染むまで待ってくれる。けれど我慢がきかないのか、微妙に腰は揺れていた。
 そのたびに僕は小さく刺激を受けて、欲情をかき立てられる。苦しいのに、苦しくなくなる。
「…テン……」
 じっとしているのがもどかしい。
 もう動いていい。
 そう素直に伝えられればいいけど、僕はそれが直接言えずにテンを呼ぶ。
 視線を合わせるとテンの方が焦れたように「動いていい?」と尋ねてきた。
 お預けを食らっているような顔に、僕は笑いが込み上げた。僕はご飯なんだろうか。
 だが笑える余裕はそこまでだった。
「ひ、あ…っ!あ、あ」
 テンは腰を打ち付けるように動かし始めた。
 少し粗くて、でも無理矢理じゃない強さだった。
 くちゅくちゅという水音が大きく響いて、僕はかぁと頬が熱くなるのを感じた。
 自分のそこが、抱かれるものになっている。
 しかもそれがイイ。
 おかしいはずなのに、おかしいなんて思えない。
「はや…ぃ!」
 攻め立てるような律動の速さに、僕はゆっくりして欲しいと願う。けれどテンは駄目だと掠れた声で言っただけだった。
 中で僕を貫いているものは十分な硬さを持っている。それでイイ場所をねぶるのだ。
 声を殺すなんて考えも吹っ飛ぶ。
「テンっ…!だ、イく…!」
 一気に高め上げられると、保たない。
 さっきまで口に含まれていた僕のものがとろとろと浅ましいものを流しているのを感じられる。
 後ろにテンが入り込んできた時は少し落ち着いたはずなのに、交わるとまた頭をもたげる。
 満ちているものも、大きく増えていく一方だ。
 もう引き返せない。
「テン…!」
 二人の腹ですられたそれが、限界を訴える。
 きっとテンもそれは感じているはずだ。ちらりと見られ、僕は首を振る。
「イってもいいよ。その分後が長いけど」
 口角を上げて、テンは酷いことを言う。
 後が長いということは僕がイったとしてもテンは中をなぶり続けるってことだろう。
 イった直後に中を擦られると、出すものもないのに無理矢理押し上げられているような、頭がおかしくなる感覚に襲われる。
 悲鳴みたいに声を上げて、テンに狂わされるのだ。
 それは正直イイとか悪いじゃなくて苦しい。
「や、やだ。一緒が、一緒に…ね、テン」
 イく時は一緒に。だって一緒にイくと気持ちイイだけじゃなくてすごくテンが近くなる。
 だから僕はそうねだった。
 すがるような僕に、テンは目を見開く。
 そして僕が後ろではんでいたものが、大きくなったようだった。
「…怖ぇ飼い主」
 何が怖いのか分からずにいると、テンが僕の耳を噛んだ。
「言葉だけでイかせようとすんなって」
 流し込まれる。甘ったるい声。それだけで僕は声を零した。なんて色気のある生き物なんだか。
「っ!や、やだ!テン!」
「だって一緒がいいんだろ」
 テンは僕の前を指で掴み、イけないように根本を止める。
 溢れ出そうとしてものに蓋をされ、欲の波が僕の中で暴れ始めた。
「はなっ…て!や、ゃあ」
 首を振ってねだる。なのにテンは手を離してくれないどころか、腰を打ち付けては僕の中をえぐる。
 熱くて、硬くて、壊されそうだ。
 全身が融解するんじゃないかって思う。
「テンっ!ねが…やだ…ね、もう」
 放して、イかせて。と懇願する。けれど返事は奥で何度も動く雄だった。
 イきたい。
 そればかり願って後ろをきつく締める。
 するとテンが息を呑んだ。
 そして中にものを引き抜いたかと思うと今度は一気に突き上げてきた。
 僕の喉から悲鳴みたいな声を出た気がする。でも意識はぐらついて、よく分からない。ただ、熱い。
 首筋に歯を立てられ。
 奥を何度か壊すように揺さぶられ。
 ふっと解放される感覚に僕は自分を手放した。
「…は……はぁ…は」
 乱れた呼吸。
 いつの間にか目をきつく閉じてしまったらしい。
 うっすらとまぶたを上げるとテンがぐったりと僕にのし掛かってきた。重い。
 肺が空気を必死に欲しがっていた。それはテンも同じようで、胸が大きく上下している。
 ぐったりと疲労が全身に広がる。同時に薄い眠気もあった。
 だが密着している肌がそれを遠ざけていく。
 イって冷静になればいいのに。僕の身体はテンとくっついているだけで落ち着かなくなる。
 テンに至っては疲れているはずなのに、僕の首筋に顔を寄せてきていた。懐いているようだ。
「はあ…気持ちイ」
 テンは目を細める。ばっさりと感想を言われ、僕は途端に恥ずかしくなる。
 気持ちよくないと言われたら傷付くけど、そうやって堂々と言われるとなんだか居たたまれない。
 テンは僕が見せる気恥ずかしい様に更に笑みを深くした。楽しむことないだろうに、意地が悪い。
 目をそらした先にあったのは、僕が汚したテンの腹だった。白濁に濡れている。
 それは僕の腹にも流れている。
 テンも僕の視線を読むように同じ場所を見て、何を考えたのか指を伸ばしてきた。
 僕の腹についた白濁を指ですくうと、それを口元に運んだ。
「テン!?何してんだよ!」
 僕は慌ててテンの手を掴んだ。
「ん?フェレットだったら舐めてるかなって」
「舐めるわけないだろ!?フェレットは自分の餌しか食わない!お前だって食い物の好み激しいくせに!」
「好みかも知れないじゃん」
 フェレットの好みにこんなものが入るはずがないだろう。
 僕は頭の中が真っ白になりそうだった。
 どういう思考回路をしているのか、この男は。
「今は人間だろ!?フェレットだったらとかいらない!」
「ま、そうかも。フェレだったらこんなこと出来ないし」
 そう言いながらテンはぺろりと自分の唇を舐めた。
 とんでもない状況を見せられ、だが思い出してみれば口でされている時にイってしまったこともある。
 そのまま飲まれたこともあるので動揺するのは今更かも知れない。
 しかしイってしまって冷静さがかけらでも戻ってきた後に舐められると衝撃の度合いが大きい。
(あーもう……)
 とにかくなんだか恥ずかしい。
 セックスとはそういうものかも知れないけど、テンの突拍子もない行動に慣れる日がくるとは思えなかった。
 

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